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STORY
ストーリー

プロジェクト

シン・マーケティングプロセス戦記【5】

OUTLINE

あなたのチームに、圧倒的な経験とセンスで次々と課題を解決していく、スーパーエース、いわゆる「あの人」はいないでしょうか。たしかに「あの人」はヒーローかもしれません。が、もし「あの人」が異動になったら?転職してしまったら?特定の個人のスキルやひらめきに依存した状態は、組織にとって実は非常に脆いものではないでしょうか。

「あの人だからできた」をなくしたい。

これは、JR西日本グループのDXを担う私たち、株式会社TRAILBLAZERの有志メンバーが、そんな「属人化」という名の亡霊に立ち向かうために立ち上がった物語です。部署も経験も異なる私たちが、それぞれの知見を持ち寄り、「誰でも」「再現性高く」マーケティングで成果を出すための“地図”、「シン・マーケティングプロセス」を作り上げるまでの冒険の記録、第五回です。

CLIENT

西日本旅客鉄道株式会社

MISSION

JR西日本では、生活インフラを支える様々なサービスとデジタルサービスを融合することにより、さらに便利で・おトクで・楽しい、ゆたかな生活を実現することを目指しています。 安定・安心・安全が求められるインフラ事業と、変化と進化の求められるデジタルサービスを融合し、お客様価値を高め続ける、という課題にチャレンジしています。

PROJECT MEMBER

Y.O(記事中の名前:岡村) データコンサルティング事業部

K.M(記事中の名前:皆川) ソリューション事業部

S.K(記事中の名前:清原) ソリューション事業部

R.K(記事中の名前:金井) ソリューション事業部

D.I(記事中の名前:稲本) データコンサルティング事業部

M.S(記事中の名前:佐々木) データコンサルティング事業部

【第5話】“エモい”の正体〜顧客価値とコンセプトの言語化〜

イントロダクション

「もっとユーザーにワクワクする体験を!」「このブランドが持つ“エモい”世界観を伝えよう」「我々のサービスのベネフィットは…お客様が便利になることです!」

あなたの会議室でも、このようなフワッとした言葉たちが宙を舞ってはいないでしょうか。これらの言葉は、顧客を想う熱意の表れです。しかし、時にプロジェクトを迷走させる魔物にもなります。なぜなら、人によって解釈がまったく違うからです。

ある人にとっての「ワクワク」は、サプライズに満ちた刺激的な体験かもしれません。別の人にとっては、一切の不安なく物事が進む、安心感に満ちた体験かもしれません。

「ワクワク」とは何か?その正体を突き止め、誰もが同じイメージを共有できる「言葉」に翻訳しなければ、チームは同じ船に乗っていても、それぞれが違う島を目指してオールを漕ぐことになってしまいます。

本記事のポイント

●   感情を目的化する危険性。 「ワクワク」や「エモい」といった言葉は解釈が多様なため、チームの議論を発散させ、プロジェクトを停滞させる原因となる。

●   感情を「価値」に翻訳する技術。 顧客の「ペイン(不満)」から本質的な「ニーズ(欲求)」を抽出し、それを解決した先の「ベネフィット(便益)」を定義することで、フワッとした感情を具体的な提供価値へと変換する。

●   コンセプトが北極星になる。 意思決定を行う際の判断軸となるものを端的な言葉で表現することで、チームの意思決定に一貫性が生まれ、プロジェクトが迷走しなくなる。

解くべき課題:「ワクワクとは何か?」哲学問答が始まった日

これは、私たちのチームがとあるライフイベントサービスのコンセプトを議論していた時の実話です。ターゲットとなるペルソナも明確になり、次なる議題は「そのペルソナに、どんな価値を提供するか?」。

メンバーの一人が熱っぽく語りました。「準備は大変だからこそ、私たちのサービスは、一貫して『ワクワク』できる体験を提供すべきだ!」。素晴らしいアイデアに、全員が頷きました。しかし、その直後、プロジェクトは沼にはまります。

「ワクワクと言うからには、サプライズが必要では?」 「いや、タスクが自動で片付くストレスフリーな状態こそがワクワクだ」

議論は完全に発散し、それぞれが自分の思う「ワクワク」を語るだけで、具体的なサービス内容にたどり着きません。私たちは、「ワクワクとは何か?」という哲学問答を延々と繰り返すことになってしまったのです。この失敗から私たちは、感情を表す言葉は魅力的だが、それ自体をゴールに設定してはならないと学びました。その感情が「なぜ」生まれるのか、その根本原因を分解し、定義する必要があるのです。

解決へのアプローチ:感情を分解し、「価値」へと翻訳する技術

フワッとした感情を、ビジネスに繋がる具体的な「価値」へと翻訳するために、「シン・マーケティングプロセス」では、顧客のインサイトを複数の要素に分解して考えます。

1.ペイン(Pain / 不): 顧客が抱える具体的な不満、不便、不安、不快、不足は何か?
2.ニーズ(Needs / 本質的欲求): そのペインの裏にある、顧客が本当に解決したい根源的な欲求は何か?
3.ウォンツ(Wants / 具体的手段): そのニーズを満たすために、顧客が「こうだったらいいな」と思っている具体的な商品やサービスは何か?
4.ベネフィット(Benefits / 便益): その商品やサービスによってニーズが満たされた結果、顧客が得られる「嬉しい未来」は何か?

有名な「ドリルを買いに来た客」の例で考えてみましょう。顧客のウォンツは「ドリル」ですが、その裏にあるニーズは「壁に穴を開けたい」ことです。さらにその奥には、「家族の写真を飾り、温かいリビングを作りたい」という、より本質的な欲求(ベネフィット)が隠されています。私たちが売るべきは「ドリル」というモノではなく、「家族の笑顔が溢れる素敵なリビング」という未来であり、その商品が提供する価値なのです。

そして最後に、その意思決定を行う際の判断軸となるものを端的な言葉で表現した「コンセプト」に落とし込みます。これが、チーム全員が共有するプロジェクトの北極星となります。

プロジェクトでの実践録:「思考停止ワード」からの脱出

先のライフイベントサービスの議論が行き詰まる中、リサーチを専門とする金井が口火を切りました。「『ワクワク』は便利な言葉ですが、ある意味で思考停止ワードです。私たちの役割は、その感情の裏にある、ユーザーの具体的なペインと本質的なニーズを突き止めることのはずです」。

この指摘は、チームの視点を大きく変えました。ユーザーは「ワクワクしたい」からサービスを探すのではなく、「準備が面倒で不安」というペインを解決したい。その結果として「ワクワク」という感情が生まれるのだ、と。

議論の焦点は、「ワクワクの定義」から「具体的なペインを解消するベネフィットの言語化」へと移りました。「専門家のアドバイスで、迷わず最高の選択ができる」「ToDoリストが自動更新され、何も考えなくても準備が進む安心感」といった、具体的な価値が次々と洗い出されていきました。

この時、元経営コンサルの岡村が、BtoE旅行商品企画の事例を共有しました。「あのプロジェクトでは、ペルソナごとに提供価値を『コスパの良い非日常体験』や『直前でも安心予約』と具体的に言語化した。だからこそ、作るべき商品も、伝えるべきメッセージもブレないのです」。

ホワイトボードの「ワクワクとは…」という文字が消され、代わりに「顧客のペイン」「本質的ニーズ」「具体的ベネフィット」という言葉が書き込まれていく。哲学問答は終わり、チームは再び、顧客という確かな大地に足をつけ、具体的な価値創造へと歩き出したのです。

今回のまとめ

●   感情を目的化しない。 「ワクワク」や「エモい」は顧客が感じる「結果」であり、作り手が目指す「目的」ではない。その感情が生まれる「原因」となる具体的な価値(ベネフィット)を定義することが重要です。

●   顧客の「不」から出発する。 顧客の具体的なペイン(不満・不安・不便・不快・不足)を深く理解することが、本質的なニーズと、本当に求められるベネフィットを発見する最短ルートです。

●   コンセプトを一行で言語化する。 「誰に、どのような価値を、どのように提供するか」を簡潔なコンセプトに集約することで、プロジェクトの「北極星」が定まり、チームの意思決定がブレなくなります。


【次回予告】 第6話:絵に描いた餅で終わらせない〜ソリューション設計という現実〜

最高のターゲットに、最高のコンセプト。完璧な企画書が出来上がった。しかし、そこに立ちはだかる分厚い壁…「システム的に無理です」「予算がありません」。次回、理想と現実の狭間で、どうやって「絵に描いた餅」を、ちゃんと食べられる美味しい餅に変えていくのか?ソリューション設計のリアルに迫ります。


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