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STORY
ストーリー

プロジェクト

シン・マーケティングプロセス戦記【6】

OUTLINE

あなたのチームに、圧倒的な経験とセンスで次々と課題を解決していく、スーパーエース、いわゆる「あの人」はいないでしょうか。たしかに「あの人」はヒーローかもしれません。が、もし「あの人」が異動になったら?転職してしまったら?特定の個人のスキルやひらめきに依存した状態は、組織にとって実は非常に脆いものではないでしょうか。

「あの人だからできた」をなくしたい。

これは、JR西日本グループのDXを担う私たち、株式会社TRAILBLAZERの有志メンバーが、そんな「属人化」という名の亡霊に立ち向かうために立ち上がった物語です。部署も経験も異なる私たちが、それぞれの知見を持ち寄り、「誰でも」「再現性高く」マーケティングで成果を出すための“地図”、「シン・マーケティングプロセス」を作り上げるまでの冒険の記録、第六回です。

CLIENT

西日本旅客鉄道株式会社

MISSION

JR西日本では、生活インフラを支える様々なサービスとデジタルサービスを融合することにより、さらに便利で・おトクで・楽しい、ゆたかな生活を実現することを目指しています。 安定・安心・安全が求められるインフラ事業と、変化と進化の求められるデジタルサービスを融合し、お客様価値を高め続ける、という課題にチャレンジしています。

PROJECT MEMBER

Y.O(記事中の名前:岡村) データコンサルティング事業部

K.M(記事中の名前:皆川) ソリューション事業部

S.K(記事中の名前:清原) ソリューション事業部

R.K(記事中の名前:金井) ソリューション事業部

D.I(記事中の名前:稲本) データコンサルティング事業部

M.S(記事中の名前:佐々木) データコンサルティング事業部

【第6話】絵に描いた餅で終わらせない〜ソリューション設計という現実〜

イントロダクション

最高のターゲット顧客を定め、彼らの心に深く突き刺さる、完璧なコンセプトを練り上げた。会議室は熱気に包まれ、チームの誰もが成功を確信する。「この企画は、間違いなく成功する」と。

マーケティングの仕事において、最も胸が高鳴る瞬間の一つです。しかし、この高揚感の直後には、しばしば冷たい現実の壁が立ちはだかります。企画書を意気揚々と関係部署に持っていくと、返ってくるのはこんな言葉たち。

「面白いけど、うちのシステムじゃ技術的に無理だね」 「素晴らしいアイデアだけど、現場の運用が回らないよ」

どんなに美味しそうな餅も、絵に描いただけではお腹は膨れません。コンセプトという名の「理想の設計図」を、実際に顧客が体験できる「食べられる餅(=ソリューション)」に変えるには、この現実の壁を乗り越えなければならないのです。

本記事のポイント

●   コンセプトが「骨抜き」にされる悲劇。 どんなに優れたコンセプトも、技術・予算・運用といった現実の制約を無視すれば、本質的な価値を失った「絵に描いた餅」になってしまう。
●   解決策は「課題の早期発見と構造化」。 コンセプトが決まった直後に、それを阻む課題を「プロダクト」「売り場」「プロモーション」の3つの視点で洗い出すことで、致命的な手戻りを防ぐ。
●   制約は交渉材料になり得る。 プロトタイプで顧客の強いニーズを証明できれば、それは「実現不可能」とされた制約を乗り越えるための強力な交渉材料となる

解くべき課題:コンセプトが骨抜きにされる悲劇

これは、プロジェクトメンバーが過去に関わった、とあるポイント情報アプリ開発での苦い失敗談です。

当初、チームが掲げたコンセプトは明確でした。「ユーザーが、もっとお得に、もっと楽しくポイントを貯められる体験を提供するアプリ」。ユーザーが期待していたのは、まぎれもなく「ポイントを貯める機能」だったのです。

しかし、開発が進むにつれて恐ろしい事実が判明します。既存の基幹システムが複雑すぎて、アプリとリアルタイムで連携し、新しい仕組みを実装するには、莫大なコストと時間がかかることがわかったのです。

予算もスケジュールも限られる中、最終的にリリースできたのは、「自分がこれまでに貯めた実績を確認する」だけの機能でした。ユーザーが欲しかったのは「未来のお得」だったのに、私たちが提供できたのは「過去の実績」だけ。コンセプトは、既存システムの制約という分厚い壁の前に、完全に骨抜きにされてしまったのです。

解決へのアプローチ:感情を分解し、「価値」へと翻訳する技術

この「絵に描いた餅」現象を防ぐため、「シン・マーケティングプロセス」では、「3rd Gate」の冒頭で「ソリューション課題抽出」というステップを設けています。これは、brilliantなコンセプトが決まった直後に、あえてチーム全員で「このコンセプトを実現する上で、障害になりそうなことは何か?」を徹底的に洗い出す作業です。

私たちは、その課題を3つの視点で分類します。

1.プロダクト(商品・サービス): そもそも、何を提供する必要があるのか?コンセプトで定めた価値を提供できる品質を担保できるか?
2.売り場(販売チャネル): 想定しているチャネルで、本当に販売できるのか?既存の決済や物流システムは対応可能か?
3.プロモーション(顧客への伝え方): ターゲット顧客に、この価値を伝える最適な手段は何か?その予算や人員は確保できるか?

特に重要なのは、システム、予算、法律、人的リソースといった、変更が難しい「実現不可能な制約」を計画の初期段階で見つけ出すことです。それを早期に特定できれば、「制約を回避する代替案を考える」「制約に合わせてコンセプトを現実的なものに修正する」といった手を打つことができます。

プロジェクトでの実践録:理想と制約のマップを広げる

BtoE旅行商品企画のコンセプトが固まった直後、チームは早速この「ソリューション課題抽出」のワークショップを実施しました。PdMである清原が、「コンセプトは最高ですが、本当に実現できるでしょうか?例えば、提携する旅行会社のシステム制約が一番の壁になります」と現実的な論点を提示したのが始まりです。

これに対し、UX専門家の皆川は、「だからこそ、まずプロトタイプを作って顧客にぶつけるのが重要だ」と提案しました。「『この機能がないと絶対に買わない』という顧客の声を集めることができれば、それをシステム改修を交渉するための強力な材料にできる」という考えです。

この視点を踏まえ、元経営コンサルの岡村のファシリテートのもと、チームはホワイトボードに「理想(やりたいこと)」と「制約(できないかもしれないこと)」を書き出すワークショップを開始しました。

「理想は『完全オンラインで予約から発券まで完結』だが、制約は『現状、駅での発券が必須』」。 「理想は『“推し活”で使えるよう、ライブ会場近くのホテルも自由に組み合わせたい』が、制約は『現状、対象はグループ会社のホテルのみ』」。

あっという間に、ホワイトボードはプロジェクトが乗り越えるべき課題のマップそのものになりました。チームはマップを俯瞰し、「事業の根幹に関わる、絶対に解決すべき制約はどれか」「バージョン1.0では諦めてもいい理想はどれか」という優先順位付けを行いました。コンセプトという理想の設計図は、このプロセスを経て、実行可能な「建築計画」へと姿を変え始めたのです。

今回のまとめ

●   コンセプト(理想)とソリューション(現実)の検討を同時に行う。 素晴らしいアイデアも、実現できなければ価値はありません。企画の初期段階から、実現可能性を常に検証することが重要です。

●   課題を「プロダクト」「売り場」「プロモーション」の3つに分解して考える。 漠然とした不安や課題も、構造的に分類することで、具体的で対処可能なアクションリストに変わります。

●   制約は「交渉材料」になり得る。 実現が難しい機能でも、プロトタイプによる仮説検証で「顧客が強く求めている」という事実を示せれば、それは既存の制約を乗り越えるための強力な交渉材料となります。


【次回予告】 第7話:地図は完成した、そして冒険は続く〜新メンバーとPDCAの旅〜

ついに「シン・マーケティングプロセス」ver1.0が完成!しかし、どんなに優れた地図も、机の中にしまわれていては意味がありません。そんな中、新メンバー・佐々木さんの鋭い視点が、プロセスに新たな化学反応を巻き起こします!次回、作り上げたプロセスを「文化」として根付かせるための、終わりなき旅が始まります。


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