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STORY
ストーリー

プロジェクト

シン・マーケティングプロセス戦記【3】

OUTLINE

あなたのチームに、圧倒的な経験とセンスで次々と課題を解決していく、スーパーエース、いわゆる「あの人」はいないでしょうか。たしかに「あの人」はヒーローかもしれません。が、もし「あの人」が異動になったら?転職してしまったら?特定の個人のスキルやひらめきに依存した状態は、組織にとって実は非常に脆いものではないでしょうか。

「あの人だからできた」をなくしたい。

これは、JR西日本グループのDXを担う私たち、株式会社TRAILBLAZERの有志メンバーが、そんな「属人化」という名の亡霊に立ち向かうために立ち上がった物語です。部署も経験も異なる私たちが、それぞれの知見を持ち寄り、「誰でも」「再現性高く」マーケティングで成果を出すための“地図”、「シン・マーケティングプロセス」を作り上げるまでの冒険の記録、第三回です。

CLIENT

西日本旅客鉄道株式会社

MISSION

JR西日本では、生活インフラを支える様々なサービスとデジタルサービスを融合することにより、さらに便利で・おトクで・楽しい、ゆたかな生活を実現することを目指しています。 安定・安心・安全が求められるインフラ事業と、変化と進化の求められるデジタルサービスを融合し、お客様価値を高め続ける、という課題にチャレンジしています。

PROJECT MEMBER

Y.O(記事中の名前:岡村) データコンサルティング事業部

K.M(記事中の名前:皆川) ソリューション事業部

S.K(記事中の名前:清原) ソリューション事業部

R.K(記事中の名前:金井) ソリューション事業部

D.I(記事中の名前:稲本) データコンサルティング事業部

M.S(記事中の名前:佐々木) データコンサルティング事業部

【第3話】航海図なき船の悲劇〜なぜ目的はひっくり返るのか?〜

イントロダクション

プロジェクトが順調に進んでいると思っていた矢先、それは突如としてやってきます。
最終報告の直前、それまで議論に参加していなかった役員クラスの人物が会議に現れ、こう一言。「うん、よくできているね。ところで、このプロジェクトの目的って、そもそもAではなくBだよね?」
その瞬間、会議室の空気は凍りつき、メンバーの顔からは血の気が引いていく…。これまで積み上げてきた議論、費やした時間、作り上げた資料の山が、音を立てて崩れ去る。まさに「ちゃぶ台返し」。航海図を信じて進んできた船が、実は全く違う目的地に向かっていたと知らされる、絶望の瞬間です。
なぜ、こんな悲劇が起こるのでしょうか?それは、船が出航する前に、船長から乗組員まで、全員が「どの宝島を目指すのか」という、たった一つの、しかし最も重要な合意形成を怠っていたからです。

本記事のポイント

 ●  プロジェクトにおける「ちゃぶ台返し」の構造。 関係者間の「暗黙の前提」の食い違いが、プロジェクト終盤での致命的な手戻りの原因となる。

●   解決策は「ゲート」という名の関所。 プロセスの各フェーズの間に、関係者全員の「合意形成」を必須とする関所を設けることで、認識のズレを早期に発見・修正する。

●   最初の「1st Gate」が最重要。 特に、プロジェクト開始時に「事業目的」と「KGI/KPI」を全関係者で合意することが、航海の方角を定める上で極めて重要である。

解くべき課題:「福利厚生」か「増収活動」か、それが問題だ

この悲劇の根本原因は、関係者の「暗黙の前提」が食い違っていることにあります。プロジェクトメンバーは「顧客満足度の向上」を目的だと信じていても、経営層は「短期的な収益確保」を期待しているかもしれません。この認識のズレが共有されないままプロジェクトが進行すると、終盤でのちゃぶ台返しは不可避となります。

実際に私たちのチームが、JR西日本グループ社員向けの旅行商品を企画するプロジェクト(BtoE領域での実証実験)に関わっていた際、まさにこの問題に直面しました。

当初、私たちはこのプロジェクトの目的を「社員やその家族への福利厚生の提供」と定義し、利用満足度の向上をゴールとして議論を進めていました。しかし、ある日のレビューでクライアントの幹部から、「マーケティング部門が主導するからには、これは収益を上げるための『増収活動』と捉えるべきではないか?」というコメントが寄せられたのです。

福利厚生が目的ならKPIは「利用満足度」や「利用人数」になりますが、増収活動が目的ならKPIは「売上」や「利益率」です。評価軸が180度変わる、致命的な認識のズレでした。もちろん、そこから大幅な手戻りが発生したのは言うまでもありません。

解決へのアプローチ:「合意」するまで次に進ませない。「ゲート」という名の関所

この痛恨の失敗から、私たちは「シン・マーケティングプロセス」に一つの重要なルールを組み込みました。それが「ゲート」という考え方です。

私たちのプロセスは大きく3つのフェーズに分かれており、その間に「ゲート」と呼ばれる関所が設けられています。そして、各ゲートには「完了条件を満たし、関係者全員の合意を得るまで、決して次のフェーズに進んではならない」という厳格なルールがあります。
特に最初の関所である「1st Gate: 事業目標の明確化」では、以下の点について、プロジェクトに関わる全てのステークホルダー(経営層も含む)と徹底的にすり合わせ、合意形成を行います。
● Why: なぜこの事業を行うのか?(事業目的)
● What: 何を達成すれば成功なのか?(KGI/KPI)
この「関所」があることで、後から「話が違う」というちゃぶ台返しを防ぐことができます。なぜなら、ちゃぶ台を返す可能性のある人物にも、最初の段階で議論に参加してもらい、目的地の設定に責任を持ってもらうからです。

プロジェクトでの実践録:あの失敗が、我々を強くした

BtoE旅行商品企画での「目的のひっくり返し」について、一緒にプロジェクトを進めているクライアントから状況を伺った時は少々驚きましたが、「私たちのプロセスに則って考えれば、これは“良い手戻り”ですね!」とすぐに伝えました。プロジェクトの初期段階で軌道修正できたのは、むしろ幸運でした。もし、あの認識のズレに気づかないままプロジェクトの最後まで進んでいたら、企画そのものが白紙撤回されていたかもしれません。幹部からの「目的のひっくり返し」に打ちのめされるのではなく、さらに良いものにしていくための後押しであると前向きに捉えることもできました。

この経験は、プロセスを導入する価値をクライアントに理解してもらう事に繋がりました。クライアント自身も「本当の目的」を明確に言語化できていないケースは非常に多い、という学びも得ました。プロジェクトを一緒に進める私たちの役割は、ただ言われたものを作ることではなく、対話を通じてその「本当の目的」を一緒に掘り下げ、定義していくことなのだということも。

この経験は、メンバーが過去に体験した「目的のひっくり返し」から得られた思いを揺るぎない確信へと変えてくれました。「シン・マーケティングプロセス」の第一関門である「目的」と「KGI/KPI」の合意形成こそ、プロジェクトの成否を分ける羅針盤であることを、私たちは改めて深く認識したのです。すなわち「シン・マーケティングプロセス」の原型が生まれた瞬間でした。

今回のまとめ

●   プロジェクトは「Why(なぜやるのか)」の合意から始める。 何を作るか(What)の前に、なぜ作るのか(目的)を関係者全員で徹底的に議論し、言語化することが、後の手戻りを防ぎます。

●   決裁者や関係者は、議論の最初期に巻き込む。 「後でレビューしてもらう」のではなく、「最初の目的地設定から参加してもらう」ことで、当事者意識を持ってもらい、ちゃぶ台返しを防ぎます。

●   目的と目標は「ゲート」として正式に合意する。 口頭での確認ではなく、KGI/KPIといった具体的な指標に落とし込み、ドキュメントとして関係者全員の合意を得るプロセスを設けることが、プロジェクトの安定進行に不可欠です。


【次回予告】 第4話:「みんな」という名の誰もいない〜ターゲット設定の罠〜

航海の目的は定まった。しかし、船長は叫ぶ。「この船には、できるだけ多くの客を乗せるんだ!」。優しさから生まれたその言葉が、船を沈める原因になることを、まだ誰も知らない…。次回、マーケティングにおける最も甘美で、最も危険な罠、「ターゲット設定」の闇に迫ります。


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